沈黙

沈黙遠藤周作
発表
1966年(昭和41年)
初出
新潮社から書き下ろしで刊行
形式・長さ
小説・長編
手ごわさ
ふつう

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ひとことで言うと

キリシタンへの弾圧が激しい江戸時代初めの日本に、ポルトガルの若い司祭が密かに渡ります。信者たちが苦しめられても、神は何も答えず沈黙を続けるように見えます。信仰とは何か、弱い者は救われるのかを問う、谷崎潤一郎賞を受けた遠藤周作の歴史小説です。

こんな人に

  • 信じているものを試される話に向き合ってみたい人に
  • 強い人より、弱い人の側に立つ物語にひかれる人に
  • 江戸時代のキリシタンの歴史に関心がある人に

あらすじ(ネタバレなし)

島原の乱が収まって間もないころ、ローマに知らせが届きます。日本で布教していた高名な神学者フェレイラ神父が、厳しい弾圧に屈して信仰を捨てたというのです。フェレイラの弟子だった若い司祭ロドリゴとガルペは、真相を確かめ、日本に信仰の火を絶やさないために、日本へ渡ることを決めます。

二人は途中のマカオで、日本人の男キチジローと出会います。気の弱いこの男の案内で、ロドリゴたちは五島列島に潜入し、ひそかに信仰を守る村人たちに迎えられます。

しかし奉行所の追及は厳しく、ロドリゴは身を隠しながら暮らすことになります。捕らえられた信者たちが苦しむのを見ながら、ロドリゴは神の助けを祈り続けますが、神は沈黙を守ったままです。

主な登場人物

セバスチャン・ロドリゴ
主人公のポルトガル人司祭。師の棄教の真相を追って日本に潜入する。
フランシス・ガルペ
ロドリゴとともに日本へ渡った同僚の司祭。途中から別行動をとる。
クリストヴァン・フェレイラ
ロドリゴの師で高名な神学者。日本で棄教したと伝えられる。実在した人物。
キチジロー
マカオで出会う日本人の男。気が弱く、ロドリゴのあとを何度も追ってくる。
井上筑後守
キリシタンを取り締まる幕府の役人。温厚な初老の政治家として描かれる。
通辞
奉行所の通訳。かつて神学校で学び、洗礼を受けた過去を持つ。

見どころ・おもしろいところ

  1. 手紙から三人称へ変わる語り

    物語の前半はロドリゴが書いた手紙の形で、後半は三人称や他の人物の文書で語られます。語りの形が途中で切り替わることで、ロドリゴの内側から見ていた出来事を、少し離れた位置から見つめ直すことになります。

  2. 弱い男キチジロー

    キチジローは臆病で頼りない男ですが、物語の要所で何度もロドリゴの前に現れます。遠藤周作は、この人物のモデルは自分自身だと語っています。最も情けない人物が、物語の中で大きな意味を持っていきます。

  3. 神の沈黙という問い

    信者たちが苦しめられるとき、なぜ神は何もしないのか。題名そのものが作品の問いになっています。ロドリゴの祈りがどこへ向かうのかを追うことが、この小説を読むことそのものになります。

つまずきやすい所と、読み通すコツ

時代背景を先に押さえる

舞台は、島原の乱のあとの禁教の時代です。踏絵や潜伏キリシタンなどの言葉が説明なしに出てくるので、江戸幕府がキリスト教を禁じ、信者を厳しく取り締まっていたことを知っておくと入りやすくなります。

後半は対話が中心になる

物語が進むと、奉行所の役人や通辞とロドリゴの議論が多くなります。日本でキリスト教は根づくのかという問いをめぐる言葉のやりとりなので、誰がどの立場から話しているかを意識すると読みやすくなります。

史実をもとにした書き下ろし

『沈黙』は、17世紀の日本の史実や歴史文書をもとに創作され、1966年に新潮社から書き下ろしで刊行されました。主人公のロドリゴには、棄教したのち江戸の切支丹屋敷で生涯を終えた実在の神父キアラというモデルがいます。

この作品で遠藤がたどり着いた「弱者の神」「同伴者イエス」という考えは、その後の『死海のほとり』『侍』『深い河』でも繰り返し描かれる主題になりました。

教会の反発と世界での評価

刊行当初、カトリック教会からの反発は強く、長崎では禁書に等しい扱いを受けたといいます。司祭が踏絵を踏むという結末が、教会の指導者に受け入れられなかったためとされています。

一方で作品は13か国語に訳され、作家のグレアム・グリーンは遠藤を20世紀のキリスト教文学で最も重要な作家と評しました。舞台となった長崎には遠藤周作文学館があり、小説にちなんだ「沈黙の碑」が建てられています。

結末まで知りたい人へ

ネタバレを含むあらすじを開く

ロドリゴはキチジローの密告で捕らえられ、ガルペは処刑される信者のもとへ駆け寄って命を落とします。長崎奉行所でロドリゴは、棄教した師フェレイラと再会し、井上筑後守からキリスト教はこの国に根づかないと説かれます。牢で聞こえていたいびきのような音は、拷問を受けている信者の声でした。彼らはすでに棄教を誓っているのに、ロドリゴが棄教しない限り許されないとフェレイラは告げます。

夜明け、ロドリゴは踏絵の前に立ち、銅板のイエスが踏むがいいと語りかけるのを聞いて足をかけます。そののち許しを求めに来たキチジローを通して、神は沈黙していたのではなく共に苦しんでいたのだと悟り、ロドリゴは自分がこの国に残った最後の司祭であることを自覚します。

よくある疑問

『沈黙』はどんな話?

禁教下の日本に潜入したポルトガル人司祭が、信者の苦しみと神の沈黙を前に、信仰を守るか捨てるかの選択を迫られる話です。

実話がもとになっている?

17世紀の史実や歴史文書をもとにした創作です。フェレイラは実在の人物で、ロドリゴにはイタリア出身の神父ジュゼッペ・キアラというモデルがいます。

最初の題名は違った?

遠藤周作が最初につけた題は『日向の匂い』で、広告も出されていました。編集者の申し出で『沈黙』に変わりました。

映画化されている?

1971年に篠田正浩監督、2016年にマーティン・スコセッシ監督で映画になっています。1993年には松村禎三の作曲でオペラにもなりました。

出典

あらすじと解説は、上の資料と作品の本文をもとに編集部が書いています。表紙の絵はこのサイトで作った装丁で、実際の本の表紙ではありません。

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